【mappin吉元社長×YFC山脇院長】月2万円の在庫管理システムpitto導入で現場に起きた変化と今後の医療業界について

YOUR FACE CLINIC

医療在庫管理システムpittoを開発したmappin株式会社の吉元社長とYOUR FACE CLINIC 山脇院長の対談が実現。クリニックで発生しがちな物品不足を防ぎ、効率的な発注と管理を実現するpittoのシステム開発に至る経緯から、現場で感じていた課題と導入後の変化、医療現場のシステム化を通した今後の展望についてお伺いしました。

吉元 台

mappin株式会社 代表取締役
医療物品の在庫管理・自動発注システム「pitto(ピット)」を開発・管理し、煩雑で属人的な事務手続きの解消を目指す。

山脇 孝徳

YOUR FACE CLINIC 院長
形成外科専門医・再生医療認定医の資格を持つ。自家組織を使用した鼻の整形手術を得意とし、異物ではなく自分の組織を使うことで自然な仕上がりを実現している。

医学部からシステム開発の道へ

まずは吉元社長が医学部出身でありながらシステム開発に進もうと思ったきっかけを教えてください。

吉元:正直なところ、私が医学部に入って実習などでいろんな病院を訪れたときに、自分が医者として働くイメージがつかなかったというのが始まりです。自分自身があまり大きな病気をせず生きてこられたこともあって、医学部に入ってから初めて病院の中を見て、本当に自分はこのまま医者になって良いのだろうか、という葛藤がありました。

そのとき、ちょうど医学部の先生とお話しする機会があり「医者の将来は臨床だけじゃないよ」という話をしてくださいました。例えば「学会に行くときに自分は教授なのにエコノミークラスの席だけど、医者からベンチャー企業の社長になった人たちはビジネスクラスで行っているのが羨ましく思えることもある(笑)」という話を冗談混じりにしてくださって、臨床だけじゃなくいろんな道があるんだと考えるきっかけになりました。そこから、大阪大学内にあるイノベーターズクラブという起業などを生徒に教えるコミュニティに参加しました。医学部の生徒もいれば、工学部の生徒もいるようなところで、初めて起業するということを知って、自分もできるんじゃないかと。

山脇:いわゆる、アントレプレナーのような?

吉元:そうです。アントレプレナー教育に大阪大学が今すごく力をいれているんです。それで、あれよあれよという間に会社ができて、製品を作ったら売れ出したので、僕は医者を目指すより、こういうシステム開発で医療に貢献する方が向いているんじゃないかと考えるようになりました。

医療在庫の問題を解決するためpittoを開発しようと思ったのはどのような経緯があったのでしょうか。

吉元:医院を見学させていただいたときに、注意深く見ているとスタッフの方々が“なんとなく”で在庫管理をやられているというのが目についたんです。例えば「あれ少なそうだから発注しといて」とか「誰々さん、あれある?」という問いかけに「2個しかないです!」と返すような、経験と勘での管理が行われていました。その結果、欠品して患者さんを帰さないといけない場面も見てしまったので、これはシステムで解決したいなと思いました。

というのも、大学病院のような大きな病院だとSPDシステム(医療材料物流管理システム)が入っていて、専任の人たちが院内をぐるぐる回りながら物品が切れないように供給していくようになっているのですが、少し小さな規模の病院だとそのようなシステムが入っていないんですよね。システムが導入されていない原因としては、導入コストがかなり高額なことがあげられます。何千万円とか大学病院くらいの規模だと数億円にもなります。小さな規模のクリニックは、やはりその金額感だと入れられないんだということは実感していました。

山脇:ちなみに、pittoの価格を聞いてもいいですか?

吉元:はい。小さな規模のクリニックでもお使いいただけるようにpittoは月々2万円に設定しています。最初にかかる導入コスト30万円に物品登録の代行費などもすべて入っているので、30万円とiPad1台をご用意いただければ導入いただけます。

経験と勘ではなくシステムでの在庫管理を

山脇先生は医療現場で同じような課題を感じることはあったのでしょうか。

山脇:自分が長く働いていた聖路加国際病院のような大きな病院では、欠品を経験することはまずなかったです。そのあとに、いわゆるクリニックで勤務したときに物品や薬品の発注がどのように行われているかを知って愕然としたことを覚えています。特に発注方法が複雑で、ある業者は電話、ある業者はメッセージアプリ、ある業者は未だにFAXなんですよ。

吉元:FAXを使われている業者さんもまだまだいらっしゃいますよね。

山脇:FAXでジリジリと紙が送られてくるんです。それに手書きで記入して判子を押してFAXで戻す作業をやっている。しかも、それらの作業を専任の人ではなく現場のベテランスタッフが“勘”で行っているんです。「これはそろそろなくなるから多めに入れておこうか」とか、僕らが本格的にYOUR FACE CLINICを始めたときはコロナ禍でしたので「コロナでこの製品が入らなくなるから大量に入れよう」とか、勘に頼る部分はありました。

そういう現実を見て、再現性がないという風に考えていましたし、こんなにもたくさんの会社に合わせた発注方法をしないといけないという部分に対してかなり疑問を感じていました。ただ、正直、マンパワーでなんとかなるというか、経験者の力でなんとかできてしまう話なんですよね。クリニックの規模が小さいだけに、そこのイノベーションがずっと起こらずやっていけてしまっていたのだろうと思います。

吉元:これまでに100件以上のクリニックの院長さんとお話しした中で、やはり院長ご自身が在庫管理をしているわけではないので、システムが入ろうとナースさんがマンパワーでやろうと院長から見るとどちらも“自動化”されているように感じられて、システムの導入に踏ん切りがつかないという意見もありました。

在庫管理をシステム化しなくてもベテランスタッフががんばってらっしゃるところは、そのがんばりによって今はちゃんと運営できているのも事実です。ですが、将来的には誰でも簡単に使えるシステムによって制御できることが理想だと私は考えています。

山脇:例えば、マンパワーで在庫管理をやっているとその人が辞めてしまったときに何をどう発注していたかわからないということが起きるんですよね。辞めて欲しくはないですけど、いろんな事情があるので担当者が辞めるリスクというのは常につきまとう。誰かひとりが抜けたらクリティカルな状況が訪れてしまうことは大きな問題だと思っています。

なので、YOUR FACE CLINICはそれを予防するために全部の業者に対してスタッフの担当を割り当てて、一定期間でローテーションしていこうと考えていました。そうすれば、もし誰かが辞めても別の人がカバーできると思ったんです。ただ、そう思っていたときmappinさんと知り合えたので、人の力で補うよりもpittoを導入しシステム化する形での解決を選びました。

吉元:医療業務の中では、手術であったり患者さん別の対応などは経験や勘が必要な部分で“その人にしかできない領域”も、あって然るべきだと思うのですが、在庫管理に関しては誰がやっても物品が揃ってれば良いものなので、そこは経験や能力を使わずに機械に任せていただきたいですね。システム化できることはシステム化して、スタッフのリソースは患者さんとの対話の時間などにより多く使う。そういった未来を私たちのシステムで実現したいと常々思っています。

在庫管理システム「pitto」のこだわりと特徴

pittoを開発するにあたり、こだわったポイントを教えてください。

吉元:医療系のシステムは、見た目が使いづらい印象のものが多いんですよね。ちょっと“開くのが嫌だな”と思ったり、そのまま使うのは少し憂鬱になってしまうようなものが多いので、そうはならないようにしようと思いました。ピッとバーコードを読み込んで管理するという簡単な操作もそうですし、親しんで呼んでもらえるようにと考えたpittoという名前や、iPadでシステムを開いたときにビジュアルで簡単にわかるようなデザインにこだわっています。現場で働いている人たちがストレスなく使えるというのが一番ですので。

親しみやすいデザインが特徴の操作画面

山脇先生は実際にpittoを導入するときに一番苦労したことは何でしょうか

山脇:正直、システム導入するときはスタッフがめちゃめちゃ大変そうでした。すべての薬剤を登録して、納入業者の設定や何個単位で発注するというのを先に決めるんですよね。その作業がすごく大変そうだったんですけど1回登録してしまえば、発注するかどうかを決定するだけになるし、何がなくなりそうかをデータで可視化できることもあって現場の精神的ストレスは減っています。システム化したことで欠品を完全に防げているかというとまだ試行錯誤の段階ではあるのですが、導入前よりも減ったことは確かです。

吉元:私からも質問があるのですが、山脇先生はpitto導入を含めクリニックを経営するにあたり重要視しているのはどういうところでしょうか?

山脇:僕らのクリニックは顧客体験を大切にしています。患者さんが予約を取るところから、来院、カウンセリング、治療、そしてお帰りいただき、また来ていただくまで、それぞれのタッチポイントでYOUR FACE CLINICらしさを感じていただけるようにしています。それは治療のクオリティであったり、ホスピタリティのクオリティであったり、すべてに散りばめられていて、院全体で重要視している部分で言うとしたら、そういった顧客体験を最も大事にしていますね。

また、自分自身で重要視している部分と言うと、患者さんと接する時間を最大化したいと思っています。患者さんと長く接することでいろんなお話が聞けますし、患者さんの思いも伝わることで治療に対する精度も上がってくる。患者さんと長く一緒に話して治療計画を立てて実際に治療する。せっかく患者さんに会っているのだからそれ以外の不要な時間は極力削りたいんです。自分でしなければならない作業というのをどんどん減らして、患者さんと会って話す時間を一番大切にしたいですね。

吉元:そうなると、やはりシステム化というのがひとつの手段になると思います。他にも院内で工夫できる部分があると思いますので、そこを考え続けるというのが重要ですよね。

山脇:YOUR FACE CLINICは、社訓として「やる前から、やりたくないというのは禁止」なんですよ。pittoの導入作業もスタッフは相当大変な作業だったと思うんですが、辛い作業も嫌な顔ひとつせずやってくれて、今スムーズに運用できています。そして、今回のYOUR FACE CLINICへの導入を活かして、今後はpittoをもっと簡単に導入できるようにしてもらえればいいなと思います。

吉元:ありがとうございます。実は、YOUR FACE CLINICさんが苦労された登録作業の部分は、今は電話一本入れてもらってどこの業者さんに頼んでいるかを教えていただければ全部弊社側でまるっと代行してデータでお返しするという形になっています。それだけじゃなく、日々進化するというのを私たちの目標にしています。

導入時期と蓄積されるデータの活用

お二人はドクターが新たに開院されるときに最初からシステム導入をする方が良いと考えられますか?

吉元:在庫管理というのはクリニックの文化が根付いてしまうと、そのシステムをリプレイスするのにかなりのストレスがかかってしまうんですよね。導入した方がいいことはわかっていても現場の人たちがiPadでの運用を覚えることをハードに感じたり、今までやってきた作業が大きく変わることにストレスを感じたりしてしまうこともあります。そういった導入へのストレスから患者さんへの時間が少なくなってしまうと本末転倒ですので、私はもう最初からシステムを入れて、自動化するというのがクリニックの文化になればいいなと思っています。

山脇:僕も同じ意見なのですが、僕が期待している部分は日々の発注をシステムに通すことで蓄積されるデータの活用ですね。例えば自分のクリニックだったら、こういう物品の減り方をするというのがわかるんです。なので、クリニックを始めるときに最初からシステム化してデータを蓄積しておけば物品の期限切れが減らせるんですよ。物品の期限切れはそのまま捨ててしまわなければならないので一番のロスなんですよね。データ化することで在庫のロスを減らせるというのがおそらく一番の利点ではないかと考えています。

ただ、最初から導入すべきかというと、開院ってめちゃめちゃ大変なんですよ。物品を発注するために各業者と契約を結ばないといけないですし、他にもたくさんやることがあるので。その部分を考慮すると、最初は入れないで開院して流れが掴めてからシステムを入れるのが、現時点では最良だと僕は思います。なので、可能であれば、今後はクリニックの開業に必要なメーカーとの契約なども含めてmappinさん側でまるっと代行していただけたらと思っています。

吉元:本当にその通りで、将来的には業者さんやクリニックさんなどすべてを含むハブになりたいと思っているんです。クリニック側がそれぞれの業者に頼むのではなく、まとめてpittoに頼めば必要なものが届くし、登録すれば在庫数を自動的に検知して更新され続けるようなシステムにしたいですし、業者さんとのやりとりなども我々がまるっと代行できるようになりたいなと考えています。

山脇:もしそれが実現されたら発注先がpittoだけになって開業の時間的コストがめちゃめちゃ下がりますね。さらに、そこから展開して2院目を開くときには1院目のデータが蓄積されているので、この物品はこのくらいの数を入れておけば欠品にはならないだろうという予測にも使える。

そのような蓄積されたデータに期待する部分は他にありますでしょうか?

山脇:物品の価格の最適化でしょうか。納入量と出荷量でロスがどんどん減っていく分、クリニック内の在庫の数が減らせるので、結果的にキャッシュが増える。小さな話ですけど重なると大きな額になりますし、手元のキャッシュを在庫に変えなくて良いのは大きいと思います。

吉元:なんとなく不安だからたくさん頼んでしまうけれど結果的に使わなかったので廃棄するということが、たくさんの医院で起こっています。ある病院だと年間数千万円分の薬品を廃棄しているという話もあるんですよね。経験や勘でやっているがゆえに不安が出てくると思うのですが、システム化していれば発注の頻度だったり、物品が届くまでの期間に患者さんが何人来るかだったりというデータがどんどん溜まってきます。それによって最小在庫でも欠品しない形にできれば、キャッシュフローも良くなりますし、在庫を置く場所も最小限にできるので場所の有効活用ができます。そういった部分でも、間接的ではあるものの医院の経営に大きな影響があると思います。

山脇:やっぱり、データが蓄積できるって素晴らしいんですよね。pitto側にたくさんのデータが蓄積されれば、今後はレコメンドができますよね。例えば“このお薬を頼みたい”と言われたら“この業者を使うと良いですよ”のような。

吉元:そうですね。将来的には「皮膚科ではあなたしかこの物品は使っていないですよ」というような、他の医院の情報も間接的に私たちが提供できるのではないかと思っています。やはり、開業医の方ですと物品の情報が入りづらくなるんですよね。例えば“10年同じものを使っていたけど実は時代遅れになってしまった”ということがあってもpittoであればデータとして出てくるので、“最新のエビデンスとしてはこっちの薬が主流ですよ”とアドバイスする形でデータの活用ができればいいなと思っています。

山脇:確かに、抗アレルギー薬などもどんどんと新しいものが出てきていますが、最近はいろんな事情でメーカーさんがあまり説明に来られないことなどを考えると、“傾向として先進的なクリニックはこれを使っています”という情報とその理由を記載したレターのようなものをメールなどで送ってもらえるとめちゃめちゃいいですね。

吉元:そうですね。最終的には“今、必要なのはこの物品ですよ”というような形でレコメンドまでできるようになれば医療物品すべてのハブになれるのではないかなと思っています。

山脇:あとは、それによって医療業界の古き慣習みたいなものが少し緩むといいですよね。

吉元:やはり先生がおっしゃるように、患者さんと実際に対話して一緒に考えるというのが私としても一番大事なことだと考えているので、システム化をすることによって人と人とのつながりが増えてほしいと思っています。

山脇:システム化することで余計な不安が減るんですよね。“薬がなくなるんじゃないか”とか“これ納品大丈夫かな”とか。そういう不安からダブルチェックをしてスタッフの時間を使うというのが実際にかなり減っています。

吉元:そうなんですよね。もし欠品にしてしまったら院内で怒られるだけじゃなく、患者さんに帰っていただかないといけないじゃないですか。そういう部分をシステム化で減らせればと思います。

山脇:欠品はしないけど在庫過多にもなっていないような、その狭いレンジにずっといるって健全な経営のためにすごくいいですよね。

あと、どうしても、物品が減っていくスピードが異様に速いとか、何かおかしいなって思うことがあるんです。本当に疑いたくはないんですが、やはりどこかで“社員が少し持って帰っているんじゃないか”とか“第三者に盗難されているのではないか”というのはクリニックが常に抱えている問題なんですよね。

吉元:それも本当にいろんなクリニックで話にあがりました。本当に悪気がなく、例えばコロナ禍だったらマスクを持って帰ってしまったとか。スタッフさんとしては“これくらい大丈夫かな”って思われるかもしれませんが、スタッフさんの中でその考えが広がることによって病院の中からいつの間にか物品が消えているということが少なからずあるみたいなんですよね。

山脇:そこに関してもpittoで管理されていれば在庫数が目に見えますし、管理を細分化していけば1個単位で管理することもやろうと思えばできる。そうすることで、余計な心配というか、自分たちの大切なスタッフに疑いの目をかけることなく、気持ちよく経営できるというのがすごく大きな利点ですよね。

医療業界のシステム化による今後の展望

最後に、医療業界のシステム化を含めて今後の展望をお聞かせください。

山脇:開院するときは、どうしても以前働いていたクリニックのやり方をある程度そのまま持ってこざるを得ない部分があるんですけど、開院してからどう変えていくかだと思っています。どんどん変えていきたいと思うひとつのきっかけになったのがpittoでした。今は他のことも含めて前職のシステムからかなり変えてきましたし、今後もより良くするために変えられることは変えていきたいと思っています。医療業界全体のシステム化として、pittoがスタンダードな発注方法となり、今後は他のセクションでもシステム化が進めばいいなと思っています。

吉元:今はまだpittoのようなシステムが医療現場にほとんどない状態ですので、新しく医院に導入するとなると「今までできていたから、今のままでいいよ」という考えになるのは仕方のないことだと思います。でも、紙カルテの時代に電子カルテが出てきたときも同じで、最初は足踏みしていても、今の時代は紙カルテを使っている医師の方が少数派になりました。その変化が患者さんのためにもなっているし、医療業界のためにもなっている。今後、医療業界のシステム化を進めるにあたり、私たちのpittoがひとつのきっかけになって欲しいです。物品管理を今までアナログでやっていたけど全部システム化して絶対欠品にならず発注も自動化できるというのが業界のスタンダードになればと思っています。今後、私たちもシステムの改善をがんばりますし、医院さんにもこういうシステムがあると知っていただき、新しい概念として受け入れていただけると嬉しいです。

ありがとうございました。

病院やクリニックの物品管理・発注作業をピッと自動化!
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公式サイト:https://pitto.mappin.jp/